人怖系

恐怖のメール

あれは私が大学2年生だった頃のお話です。
当時私は長く付き合っていた彼氏にフラれてしまって、新しい出会いを求めて飲み会や合コンなどによく参加していました。
出会いはたくさんあったものの元彼と比べてしまってどうもしっくり来ず、参加するほど虚しさだけが募っていた頃、友達に「生理的に嫌じゃないと思う人だったら、とりあえず2人で食事に行ってみたら?」というアドバイスをもらいました。確かに頭ごなしに無理無理言ってないで、私も相手を知る努力をしないとな…と思って、それからは誘われたら食事に行ったりデートをしたりするようにしていました。

そんな中、友達の大学の友人たちと5対5で飲み会をしました。
そこでA君と出会ったのです。
私と彼はテーブルの左右対称の位置に座っていて、なかなか会話をする機会はなかったんですけど彼のまとっている雰囲気や何気ない会話を聞いていて、気さくな感じの人だなと感じていました。
A君とはあまり会話をすることがないまま、飲み会の最後に全員で連絡先を交換して、その会はお開きになりました。

すると、後日A君から連絡が来たのです。
飲み会のお礼と席が離れていて全然話が出来なくて残念だった…という内容でした。
私はあのメンバーの中ならA君だなと思っていたし、友達からのアドバイスもあったので何度かメールのやりとりをした後に1度会うことになりました。
はじめは水族館に行こうと誘われたましたが、いきなり何も知らない男の人と長時間いるのは厳しいなと思って夜ごはんに行くことにしました。

当日、A君と会って一緒に食事をしました。私はもともと人見知りしないし、会話が途切れるのが嫌なタイプなので、それなりに話も盛り上がったし楽しかったことを覚えています。私が思っていたように彼は面白くて、気さくな人でした。
でも時間を過ごすうちにやっぱりなんか違うな…と感じてしまいました。彼氏というよりは友達に似たような感覚があって、正直また誘われても次はないかな…なんて、そんな最低なことを思いながら、その日は帰宅しました。

その後、A君からはデートの誘いを何度も受けました。でも私はその度に予定が合わないフリや体調不良のフリをして断っていたんです。そうしていたら、そのうち諦めるか私にその気がないことを気づいてくれるだろうと思っていたからです。今までもそうしてきました。
それでも、A君からは何度もメールが来て電話も頻繁にかかってくるようになりました。
最初は返事をしていたものの、どんどん面倒になってきてそのうち私は連絡を返さなくなり、電話も出なくなっていきました。

そうしてA君と2人で食事に行ってから2か月が経ったある夜、2時ごろにまたA君からメールが届いたのです。
またか、嫌だな…と思いながら、メールを見ると「今〇〇ちゃんの最寄り駅に来てるんだ。連絡がつかないから心配で…待ってるから連絡が欲しい。」という内容でした。
私はかなり驚きました。だってA君と私の自宅は電車で2時間半ほどかかる距離だし、私の住所なども教えたことはなかったからです。なぜ私の住所を知っているのか…怖くなって、飲み会を開いてくれた友人に急いで連絡して、事態を話しました。
すると、友人が衝撃の話をしてきたのです。
A君は以前から友人に「○○(私)と付き合うことになった。もうデートも何度も重ねていてラブラブなんだ」と嬉しそうに言っていたそうなのです。そして、「今日は〇〇(私)の家で遊ぶ予定だったのに、携帯が水没して住所がわからなくなったから教えて欲しい」とA君から連絡が来たらしいのです。
その話を真に受けた友人は私の住所を教えてしまったということでした。
1度食事に行っただけなのになぜ付き合っていることになるのか意味不明だし、夜中2時に家の近くに来るなんて気持ち悪い…と恐怖を感じていました。

でもここでハッキリ伝えず、さらに関係が悪化しても困るし、思わせぶりな態度をとっていたなら私も悪かったし…と思いなおして、A君に「来てくれてありがとう。でもA君のことは何とも思っていません。だから今日も会えないし、これから連絡も取れません。本当にごめんなさい。」とメールを送信しました。

何か返事が来るかと待っていたのですが、その日は返事がなくて少しホッとしました。

ただ翌日から、知らないアドレスからのメールが届くようになったのです。時間は決まって夜中の2時でした。
しかもメールアドレスは「私の名前+私の生年月日+kill you(殺すという意味)。」
内容は「裏切られた。お前を一生許さない。制裁を加えるまで後10日」でした。
気持ち悪かったけどそういう悪戯メールも流行っていたし、その日はあまり気にしないようにしてメールを消去して眠りにつきました。
でも次の日の夜中2時、またバイブ音が鳴ったのです。メールを開くと、同じアドレスから「9」と数字のみのカウントダウンメールが。その次の日の夜中には「8」、その次の日にも「7」とカウントダウンが進むメールが届くのです。

さすがに怖くなりました。その頃にはそのメールの犯人もA君ではないかと思い始めていました。友人に相談すると「気持ち悪いし、そのアドレスをブロックしたら?」と言われてブロックをすることにしました。

あと警察にも相談に行きました。でも警察は事が起こってからでないと動けないとのことで、自宅周りの巡回を増やしてくれるというだけであっさりと終わりました。

そうしてアドレスをブロックして一週間がたちました。その間はメールの事を気にしながらも、大学の試験やらバイトやらでバタバタしていて、恐怖心も薄れていたし、まる1日忘れていることもありました。
でもカウントダウンが続いているとしたら制裁が下される最後の日、さすがにちょっと気になって1日人が多いところで過ごしてみたり、友達と一緒に過ごしたり電話をしたりして、気を紛らわせていました。
でも友達が面白半分で「カウント進んでるかもよ、一回ブロック解除してみたら?」と言ってきたのです。私も気になっていたし、その場のノリで解除をしてしまいました。
でも、何も起きませんでした。
「なんだ、やっぱり悪戯じゃん」なんて友達と笑い合いました。

自分の考えすぎだったと、安心しきっていた大学からの帰り道のことです。
私の最寄り駅に着いてホームに降り立つと、反対のホームにA君らしき男の人の姿が見えた気がして、私は一瞬かたまってしまいました。きちんとA君だと確認した訳ではありません。でもその男の人は私には気づいていないようで下を向いていました。

このままじゃやばい、気づかれたらどうなるかわからない。そう思ってダッシュで人ごみに紛れ込んで姿を隠した、その時です。ブーッと携帯のバイブ音が鳴りました。
おそるおそるメールを見ると、そこには「0」というカウントが。
血の気が引いて、何かが起こる…と私は身を強張らせました。

でも、何も起こることはありませんでした。

そこからは両親に連絡して駅まで迎えに来てもらいました。両親と電話中も心臓がドキドキして、声も手も震えていました。

恐怖のカウントダウンのメールの犯人がA君だったのか、最後に最寄り駅で見た彼はただの見間違いだったのか、結局わからないままでした。

ただその事件から数か月たったある日、友人からA君に彼女が出来たことを聞きました。
なんだか、とてもほっとしてようやく恐怖心から解放された気分になりました。

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