怖い話

夏の海と廃墟ホテルで

数年前の夏、地元のある東北に帰ったときのことです。

その年は、めずらしく地元の友人や帰省中の友人なども集まった年で、地元のスーパーや温泉でよく出くわしました。
その時、一人の友人の呼びかけでみんなで海に行こうという話になり、私にも声がかかったのです。

就職して3年が経ち、正直地元の友人関係は薄れ、疎遠になりつつある時期でしたが、このころはまだかろうじて、みんなの共通の話題もありました。
集まったのは5人で、地元に暮らすA男の車で行くことになりました。

同行したのは、私、A男、A男の彼女のA子、私と幼馴染のB子、みんなの共通の友人C男でした。私は水着なども持ってきていなかったのですが、海には入らないからいいかと思い、とりあえず暇だったのでついていくことにしました。

B子はその後地元に帰ったのですが、私と同じく東京に暮らしていた当時から、地元の友人との交流も続いており、私の知らない地元の話もよく知っていてとても盛り上がっていました。
私がついていったのは、ほとんどB子に誘われたからという理由だけで、実はA男もC男も学生時代はほとんど話したこともなかったのです。
しかし、久々に再会したみんなはちゃんと大人になっていて、夏のわずかな休暇を楽しもうと海で遊べるグッズや、A子などは差し入れも持ってきていて、結構楽しく過ごせました。

中でも1番盛り上がったのが、中学生時代の誰が、どこ高の誰と結婚したとか、誰が付き合ってて別れたあとは学生時代地味だった誰が彼氏だとか、各々地元の知り合いどうしが、くっついたり離れたりしているという恋バナでした。
実はB子もかつては地元のD男と付き合っていたことがあり、今はD男は埼玉に就職したものの地元に戻ってきているなどと話していました。

私たちの家は内陸にあるので、海まではかなりかかりましたが、朝早く出たおかげか昼には着き、曇り空と岩場ばかりの日本海で楽しみました。
とはいっても、湘南のようにビーチが広がってたくさん人がいるという感じではなく、多少海沿いに浮き輪を売る店や軽食を売る店はあるものの、さびれた漁村の様な雰囲気がありました。

ちょうどお盆も過ぎた頃だったので、子供の頃来た海よりも人はまばらでしたが、それでも水平線が見えると少しテンションが上がりました。
海では、私以外のみんな水着を持ってきており、私は日影で荷物番をすることにしました。
曇りと言えど、日差しを浴びるのはいやでしたし、べたべたする海にも入りたくなかったのです。
みんなが海ではしゃいでいる間、近くの岩場や丘の上などを散歩しました。
散歩していて気づいたのですが、ここは子供の頃にも水泳部の合宿で来たことがありました。

岩場の少し先に丘がありそこを目指して歩いたのですが、そこには赤い帽子をかぶった無数のお地蔵さんがあったのです。
この光景はデジャヴのように子供の頃の記憶を呼び起こしました。
どれもふくらはぎよりも小さく、形を成していないものもありましたが、丘の上にびっしりとお地蔵さんがおかれ、誰かが管理しているのか、雑草なども少なく花も添えてありました。
確か、親から何のお地蔵さんなのか教えてもらった記憶があるのですが、大人になった今では何も思い出せませんでした。

しかし、当時も見つけたように、おじぞうさんの間には、いくつか石が積み上げられた手作りのピラミッドのようなものがありました。
丘の上は、それほど高くないのにかなり強い風が吹いていましたが、石は倒れることなくそこにありました。
そろそろ帰ろうとしたとき、うっかりその積みあがった石を倒してしまい、慌てて直しました。

海に戻るとひととおり泳いだみんなが、岩場に出て集まっていました。
もう帰るのかと思い足早に近づくと、A男が足をつっておぼれかけ、ついでに岩場で切ってしまったのでお開きにするとのことでした。

運動神経が良く、面倒見のいいA男なのでそんな不注意をするのは意外でしたが、ともかく大事にはいたらず良かったと思います。

その後、念のためC男が運転をかわると言い、帰りはみんなで交代で運転しようということになりました。
その時、B子が体がべたべたするから、シャワーを浴びたいと言いました。
確かに、私も暑くて汗をかいていましたし、A子も銭湯に行きたいと言い、みんなでそれらしいものを探すことにしました。

たいてい、地元の海沿いには温泉や、温泉宿でも入浴だけできるところがありますが、慣れないC男が運転していたためか、全く見つかりませんでした。
そのうちみんなも空腹がピークになり、シャワーも浴びたいし、もうどこでもいいから休もうという話になりました。
その時、道にラブホテルの看板を見つけました。
今も営業しているのかわかりませんが、ホテル○○と書かれ矢印と1.5キロ先という文言をみつけ、とりあえず行ってみることにしたのです。

田舎ではわりとこうした看板は多く、古くて営業していない旅館もあれば、看板は古くてもしっかり営業が続いている施設もあるため、行ってみないことにはわかりません。
今回は、田舎のラブホテルだったので、誰もスマホで営業時間なども調べず、ちょっと好奇心もあっていってみました。
地元のラブホテルの多くがそうですが、山道の中腹に、忘れ去られた趣味の悪い別荘のように佇んでいました。
丁度そのあたりは、バブルの時代に別荘が並び、今はほとんど廃墟になった一帯でした。誰かが「こんな名前のホテルだっけ?」と首を傾げましたが、とりあえず淡いオレンジの建物の駐車場に車を止めました。

駐車場にはボロい車が一台泊まっていたので営業していると疑わなかったのです。ところが、中に入ってみると、どうやら廃墟でした。
ここでもう、みんなワーッとテンションが上がり、空腹も体のベタつきもわすれて、廃墟のラブホテルの見学を楽しみました。
天井の壁紙ははげて、かび臭いベッドが置かれ、窓ガラスも割れているところがあり、雰囲気は満点でした。
私は怖くてB子にくっついて歩いていたのですが、みんな細い狭い階段も難なくのぼり、全部の部屋を見ようとしていました。
階段は緑の絨毯のようなものが敷かれた作りで、そこだけ新しいのが気になりました。A男とC男は古いベッドにも躊躇なく飛び乗ったり、A子とB子も面白がって浴室のドアを開けたりクローゼットを開けたりしていました。

すると、突然B子が「きゃあ」と悲鳴を上げクローゼットから離れました。
みんなで寄ってみると、クローゼットの中には赤茶色のシミが広がっていて、見るとクローゼットの足元も変色していました。
その変色した先をみると、廊下に続いているようでした。

ちなみに、その部屋から階段までの絨毯だけが新しい鮮やかな緑だったので、全員ピンと来たのですが、おそらく階段もシミが広がっていたんだと思います。
B子が「やだやだやだ」と言って真っ先に逃げ出したので、私たちも後に続いてホテルから逃げました。

その後はまっすぐ地元まで帰り、怖さを払拭するかのように飲んで盛り上がりました。その時、ふとA男がいないことに気づきました。
ケガをしていることもあり、飲まないで外に煙草を吸いに行ったのかもしれないとA子が探しに行きました。
すると、A男は車の中に一人で座っていたそうですが、その光景が何とも不思議で誰かと話しているようだったとのことです。
A男が戻ってくると、A子が「誰かと電話してたの?」と聞きましたが、「え?してないけど」と言われへんな感じでした。

後から聞いた話ですが、A男はみんなが帰ったあとA子にだけ「車の中に誰かいる」と打ち明けたそうです。
私も家に帰ってから思い出したのですが、あの丘の上にあるお地蔵さんは子供の霊を祭るためのものでした。
意外と怖い話の好きなC男は、A男が海で溺れたのは霊の仕業で、車に乗って付いてきたんじゃないかと言っていました。

私は誰にも言いませんでしたが、自分があの丘の上で、石を倒してしまったせいで妙なことが起きてしまったんじゃないかと怖くなりました。

それとさらに変なのが、私は知らなかったのですが、みんなD男から連絡があって集まったらしいのです。
しかしその日、D男に連絡をしても繋がらなかったそうです。

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