怖い話

とある町の風習

「ねえ、本当にこの道で合ってるの?一向に民家が見えてこないんだけど」

「うん、この道で合ってるよ。ここに来る前に言ったよね?山奥にある町だから遠いって」

「確かに言ってたけど、もう何時間も歩いてるんだよ。もう疲れたよ。ちょっとここらで一休みしたい気分だよ」

私はどっと吹き出た汗を拭いながらため息をついた。

この道をずっと進んだ先に友達の祖母が暮らしている町があり、そこには昔から奇妙な風習があるようだった。
学校で風習を調べる宿題が出されたから、ちょうど良いと友達と一緒に町に行くことにしたのだ。

しかし、まさかこんなに遠いとは予想しておらず、私は早くも後悔していた。
すぐにでも家に帰ってシャワーを浴びたい気分だった。

「疲れてるのは分かるけど、もうちょっとだから頑張ろうよ」

「もうちょっとってどのくらいなの?もっと具体的に言ってくれないかな?じゃないと頑張ろうにも頑張れないよ。こちとら足がパンパンなんだから」

「う~ん、そうだね。あと一時間ちょっとかな。一時間くらいなら疲れてても頑張れるよね。疲れてるのは私も同じだからね」

「一時間か。ちょっとキツイかな。ねえ、少し休憩しない?」

「え?何で?嫌なんだけど」

「わかったよ、歩けばいいんでしょ」

「そうこなくちゃね」

友達は意地悪い笑みを浮かべると、疲れを全く感じさせない足取りで先を進んでいく。

もしかしたら何度もこの道を通って慣れているのかもしれない。
けれど、私は初めてこの道を通るのだから、少しは気を遣ってほしいものだ。
そんなに体力はないのだから。

友達のどうでもいい話に適当に相槌を打ちながら進んでいると、ようやく町が見えてきた。

ここまでの道のりは長かった。
休憩せずにここまで歩いた自分を褒めてやりたいくらいだった。

「やっと町に着いたね。これでようやく休憩できるよ」

「いや、お婆ちゃんの家は町の奥だから、まだ歩かないといけないよ」

「え?嘘でしょ?あとどのくらい歩かないといけないの?」

「奥と言ってもそんなに大きい町じゃないから、数分もあれば着くよ」

友達は軽く笑うと、町に足を踏み入れた。
私も友達に続いて町に入った。

友達の言う通り、祖母の家までは数分ほどで到着した。

「よくおいでくださいました。この町の風習について調べたいんでしたな」

「ええ、そうです。どういった風習なのでしょうか?」
私は前のめりで友達の祖母に尋ねた。

「この町では昔から病弱な女の子が産まれることが多くてね。そこで昔の人たちは女の子の体を強くしようと考えて、そこから風習が生まれたと言い伝えられておる」

満足そうな顔をしているところ申し訳ないが、今の説明ではどういう風習なのかまったく分からない。

風習が生まれた経緯について語っているだけだ。
風習の内容については説明していない。

「えっと、ですからどういった風習なのでしょうか?具体的な内容を教えてもらいたいのですが」

「説明するよりも見てもらった方が早いかもしれんの。せっかくおいでなすったんだ、風習に参加してみないかね?」

「え?いいんですか?この町の出身じゃないんですけど」

「べつに構いやしないさ。聞くだけよりも自ら体験した方がより深く風習について書けるじゃろ?こんな遠いところまで来てくださったんだ、そのくらいの褒美はあっても良かろうてな」

「それじゃ、お言葉に甘えて参加させていただきますね。それで風習はいつ行われるのでしょうか?」

「今晩に行われる予定じゃよ。それまでは町を見学すると良い。風習の準備をしなくちゃいけんのでね、ここで失礼するよ」
祖母はゆっくり立ち上がると、家を出てどこかに行った。

「さて風習まで時間あるし、お婆ちゃんが言ったように、町の見学をしようよ。案内するからさ」

「うん、そうだね」


私は友達と一緒に家を出ると、町を見て回った。
とくに変わったところは見受けられず、暇をつぶせそうなところもなかった。
仕方なく私は友達と他愛もない会話をして時間を潰すことにした。

そうして夜になり、やっと風習の時間になった。

「まずはこの衣装を着てくれるかの。これを着んことには風習はできんからの」

その衣装は薄っぺらい生地の白装束だった。
こんなに薄っぺらい白装束は見たことがない。

周りを見ると、私と同年代くらいの少女たちが薄っぺらい白装束に身を包んでいた。
その背後には長方形の石のブロックがあった。何だか嫌な予感がした。

「さあ、地面に寝そべってくれるかの」
友達の祖母の言葉を受け、少女は地面に仰向けに寝転がった。

私も少女たちに倣い、仰向けに寝転がった。

「それじゃ、みんな始めてくれ」町の男性たちが祖母の言葉にうなずくと、長方形の石のブロックを持ち上げ、なんと私たちの体に載せてきた。
嫌な予感が当たってしまった。

この薄っぺらい白装束は石の重さをダイレクトに伝えるためなのかもしれない。

「こ……これは……何?」私は息も絶え絶えに友達の祖母に問いかけた。

「これは何時間も石の重さに耐えることで体を強くしようという風習じゃよ。
これだけの重さが圧し掛かれば体を鍛えられるじゃろうからの。さあ、第二陣じゃ」

驚くべきことにまたも石のブロックを載せてきた。

ズシリと体に重さが圧し掛かった。
このままでは死んでしまうかもしれない。

私は石を退けようとしたが、友達に腕を抑えられてしまった。

「ダメだよ、そんなことをしちゃ。これはちゃんとした風習なんだからね。最後までやり遂げないと風習にならないよ。風習を調べに来たんだから、責任をもってやらないとダメだよ」

友達は満面の笑みを浮かべて言った。
私は友達の知らない一面を垣間見た気がして、背筋がゾッとした。

わずかに顔を動かして周りを見ると、少女たちは笑顔で石のブロックに耐えていた。
こんなの絶対におかしい。

重さに耐えかねて私は意識を失った。

「――おはよう。ようやく目覚めたね」目の前には友達が座っていた。
周りを見ると、友達の祖母の家だった。

「おめでとう、ちゃんと最後まで耐えきったね。途中で気絶したみたいだけど」

私は無言で家を出た。
するとブルーシートが見えた。わずかに膨らんでいる。

私は中身を察し、全力疾走し、町の出口を目指した。友達の声を無視して――。

以来、友達とは会っていない。
あの後、私はすぐに別の地に引っ越したからだ。今もあの風習が行われているかは私の知る由もないことだった。

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