怖い話

悪夢の半年間

当時、私は娘と2人で関西のとあるアパートの住んでいました。

ここに住むキッカケとなったのは、職場から近いという事と、2LDKの2階角部屋にも関わらず、他の空いている部屋より家賃が安かったということです。
不動産会社の方に理由を聞くも、「頑張らせて頂きました」と家賃交渉の末の価格設定だと言うばかりで、他には何も言ってはくれなかったのです。

少し不思議に思いましたが、なんせ当時の私は地方から出てきたばっかりで土地勘もなく、年齢も若かったので貯金もほとんどなく、家賃の安いこのアパートに住むことを決めてしまったのです。

無事に引っ越しが終わり、職場にも少し慣れてきたある日のこと。

いつものように仕事を終え、娘のお迎えと買い物を済ませて家に入った瞬間のことです。
それまで、楽しそうに話をしていた娘が急に黙り込み、一点を見つめたまま動かなくなったのです。
何度も娘に声をかけるも、まるで私の声が聞こえていないかのように全く返事もしませんでした。
これはおかしいと思い、実家の母に急いで電話をしました。

すると、母が「大人には見えないけど、赤ちゃんや子供には見えるものがあるって言うよね。」となんとも意味深な返事が…。
しばらく様子を見るように言われ、その場は電話を切ったのでした。

その後、娘が何事もなかった様に普通に過ごしていたため、深くは気に留めず生活をしていました。
私は、もともと霊感だとかそういう類のものは全くなく、怖いと感じた経験もなかったので、今回の娘の行動も「今日は何かあったのかな?」くらいにしか思っていなかったのですが、家賃の事もあるし、このことで余計に不思議だなと思うことは増えていったのでした。

これは、娘が2歳となりお話もできるようになった頃から始まったお話です。


まさかこれが、これから始まる一連の出来事の序章に過ぎなかったとは思いもしませんでしたが…この出来事があって以降、娘がたびたび同じようなことを口にするようになりました。

「ママ、このお部屋変だよ」と…私は、「えっ?なんで?」と娘に言いました。
すると、「だって、玄関に鬼さんいるよ。怖い顔してる。」というのです。
私はすぐに玄関を見ましたが、当然誰もいません。
「何言ってるの?誰もいないよ?」と娘に言うと、「もういなくなっちゃった。」と娘が言います。

急に寒気がし、気味が悪くなりましたが、その後は何も言わなくなったので、お風呂とご飯を済ませ、早めに寝ることにしました。
家にはベッドがなく、布団を敷いて寝ているのですが、娘の言葉が気になってなかなか寝付けず、結局朝方に眠りについたのでした。

それからというもの、ほぼ毎日のように家に帰ってくると、娘が「鬼さんが…」というようになります。
「今日は鬼さん、お風呂場にいる。怒ってるよ。」と。
それだけでなく、娘が「○○にいる」という方向をじっと見つめるのです。
さすがに怖くなり、その夜から私は徐々に眠れなくなっていきました。

なぜなら…目をつぶると、足元から誰かが登ってくるような感覚に襲われ、体が動かず、声も出ない。そうです、金縛りにあうようになったのです。
はじめは、疲労や睡眠不足でそうなっているのかなとも思いましたが、金縛りの時間はものすごく長く感じ、1時間くらいの時間が流れた感覚でした。
しかし、金縛りがふっと解け、時計を見るとたったの5分です。
また眠ろうとすると同じ状態が繰り返され、一晩のうち10回以上は金縛りにあったでしょうか。
毎日、夜が来るのが怖くなっていきました。

こんな状態で体力・気力共に限界に近づいていき、娘や同僚からも「具合がわるいの?」といわれる始末でした。
ところがある日、家に帰ると「ママ、今日は鬼さんいない。よかったね!」と娘が言います。
そんな日は、夜の金縛りもありません。
久しぶりに得る熟睡感でした。
でもこれで、娘の言う鬼さんとやらが関係しているのは明白でした。
数日に1回は金縛りもなく安眠を得られますが、また幾日かは金縛りの日々。
娘のいう鬼さんのいる場所も、日によって違います。

こんな事が2か月くらい続いたある日、偶然なのか必然なのかは分かりませんが、私たちは事故に遭いました。
幸いなことに、相手はおらず自損事故で済み、娘も私もけがはなかったのですが…今思えば、娘が鬼さんといい始めた頃から車がたびたびエンストしたり、ハンドルが重かったりはしていたような気がします。
点検を怠っているからかな?くらいにしか思っていませんでしたが、今考えるとゾッとします。

それ以降、頻回に自損事故を起こすことが増えました。
事故現場は決まって見通しの良い道路だったりします。
警察の方も、「こんなところで事故を起こす人はほとんどいないのに、不思議だな」と。
いずれも命は助かり、けがをしても軽症だったりですが。
こんなに頻繁に事故に遭ったり、娘が鬼さんと言ったりすることに耐えられなくなり、母に電話をすると「一回帰ってきなさい」と言われたため職場に有給申請をし、急遽娘と一緒に実家へ帰省することにしました。

空港へ迎えに来ていた母が、私をみてひとこと。「顔色が悪いよ、いっきに老けた気がする」と。
内心、失礼だなと思いつつ、その日は実家でぐっすり眠り、気が付いたら翌朝でした。
母が娘に鬼さんの話を聞くも、「おうちにしかいないよ、ここにはいない」とニコニコします。
やはり、アパートに理由がある様です。

その日、母と一緒に知り合いのお寺へお払いしに行きました。
すると、そこではっきりと「あなたの背中に鬼の形相をした人が見えます。でも、あなたに憑いているんじゃない、あなたの部屋です」と言われました。

「やっぱりか…」そう思いました。

自宅の玄関先に盛り塩をし、光をたくさん部屋に入れるようにと助言され、実家で1週間過ごしたあと自宅へ戻り、言われた通りにしました。
そしたら、娘が「鬼さんが笑ってる。バイバイしてるよ」と私に言いました。

それからというもの、毎晩のようにあっていた金縛りも、娘が「鬼さん」という事も、事故も一切起こらなくなりました。
実に半年間、よく耐えたなと思います。

しかし、結局のところ何が原因だったのかはっきりしたことは分からないままでした。娘に聞いても、「うーん、分からない」「覚えていない」というばかり。

それから半年後、娘が3歳になった時点で事情があり、地元へ引っ越しをしました。あの半年間は一体何だったのでしょうか?
それから現在に至るまで何事もなく平和に過ごしています。
あの時のお払いが効いたのかは定かではありませんが、皆様もお気を付けください。

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