私が24歳まで住んでいた私の地元では、心霊スポットとなっているところが多々あり、肝試しなど面白半分にその地へと足を踏み入れる方がたくさんいました。
しかし、私はそのような場所へは元々行こうとは思わなかったですし、むしろわざわざ霊を見るためにこちら側からちょっかいを出しに行くことに対して嫌な気持ちすらありましたので自分とは生涯無縁だと思っておりました。
でも、そのようなこの世のものではないものとは、こちら側が望んでいなくとも会ってしまう場合もあるのです。
私がまだ高校生だった頃、休みの日などによく実家から自転車で10分くらいのところにある池まで魚釣りに行っていました。
その池の近くには私が通っていた小学校があり、私は小学生の頃からこの池が好きでよく魚を見たり鴨を見に行っていました。
ただ、この池に行くまでの道はそんなに良い道ではなく、周りには家なども全くないところを草むらをかきわけて進んでいくとようやく着けるのです。
そのため、この池だけどこか異世界の中のものなんじゃないかなんて変な考えを持っていたこともあったのです。
ただ、その池に行くまではなかなか大変ではあるもののコイやブラックバスなどの大物がたくさんいて、地元では有名な釣り場だったのです。
その日もいつものように前日に計画を立てて、友人と2人で自転車を漕いでその池へと釣りに向かいました。ジリジリと日の照りつけるとても暑い夏休み中だったため、その池のそばの小学校まで自転車を漕ぐだけでも吹き出るほどの汗をかいていたことを覚えております。
汗だくになりながらも釣り場に到着したので持参していた炭酸のペットボトル飲料を一気飲みして、夏休みの宿題はお互いにどこまで終わったかなどの夏休み中に久しぶりに会った高校生あるあるの話をしながら釣り竿やルアーなどのセッティングをしていた時のことです。
なんとなく、どこかから誰かにジーッと見られているような感覚に陥ったのです。ただそれがどこから見られているのかがわからず、あたり全体を見渡してみたのですがどこにもそれらしき人影すら見えませんでした。
何かしら視線を感じたことは確かだったので、気のせいだったのかもしれないなんてことは思わずに絶対にこちら側から見えないところで誰かが見ていたなと思っておりました。
私は自分では信じたくなかったのですが、幼い頃から霊感というものを持っているようで何かこの世のものではないものの気配がすると背中がぞわぞわするような感覚になるのですが、その時は特にそのような嫌な感覚にはなりませんでした。
ただ、少し気味の悪い気持ちにはなったのは事実でした。
しかしながら人や幽霊ではなく、猫などの小動物からの視線だったのかもしれないなと、せっかく友人と釣りに来ているのだからあまり嫌な気分になりたくないし友人にもなってもらいたくないと、あまり気にし過ぎるのはやめました。
心の底から釣りが大好きだった私はいつの間にかにそんなおかしな視線のことも頭の中から全て忘れて釣りに熱中し、友人と心の底から有意義な時間を楽しんでいました。
釣りというものはただ単に魚を釣り上げるだけではなくとても奥が深いもので、狙いの魚がなかなか釣れなくても水の流れやルアーやエサの動きなどをじっと見ているだけでも癒しの効果があり、日頃の嫌なことも忘れてしまえるほどに気持ちの良い時間を過ごしていました。
すると次の瞬間、ググッと強い引きがあり、竿が折れそうになるくらいにしなりました。かなり大きな魚がかかったのです。
その日最大の高揚感でいっぱいになり、池の中から魚を思いっきり引き抜き、ジャンプした魚が私の横の地面に着地するまでを見ていたその時です。
ほんの一瞬、なにかが私の視界に入ってきたのです。
それがなんなのかすぐに気付くことができなかったのですが、一瞬ではあったものの頭の上に真っ白なお皿のようなものがあることだけはハッキリとわかったのです。
しかしもう一度その何かの方に視線を向けても特に何もいなくなっており、結局はなんだったのかわからずに謎に包まれたまままでした。
しかもその何かに気を取られてしまったせいで、大きな釣れた魚が自ら池へと跳ねながら逃げてしまったのです。
せっかく釣れた、もしかするとこの池の主だったのかもしれないその魚を逃してしまったという事実にすごくがっかりしてしまいましたが、それよりも先ほどの頭に白いお皿のようなものを乗せた何かの方が気になり、釣り好きな私が釣りに集中できなくなっておりました。
友人の方に目をやると、友人が持ってきていたバケツの中でスイスイと何かが動いているのがわかりました。
近寄って中を見てみると、先ほどの私が逃した魚よりは小さかったものの比較的大きめなサイズのブラックバスが2匹も釣れていたのです。
私が知らない間に魚を釣っていた友人へと闘争心を燃やして釣りモードを50パーセントまで取り戻し、残りの50パーセントは何かの視線感知モードの状態でしたがひたすら必死になって釣りをしているとなんとか1匹だけ小さな可愛いコイが釣れてくれました。
釣れない釣りも良いですが、やはり魚が釣れた時の感動はいつになっても変わりません。
その魚を持参していた水入りのバケツの中に入れてまた池の中へとルアーを投げた時でした。
また突然どこからか何かの視線を感じたのです。
しかも今度は、なんとなくですが先ほどの視線よりも近くから見られているような感覚でした。
近くで見られているということもあり緊張感があり、この空間だけ時間が止まっているかのような感覚になりました。
ただ、どこを見てもやはり何も見えず視線だけを感じていたのです。
それでも釣りをやめて帰ろうという気持ちにはならず、釣りに集中していればまたいつかその嫌な視線から解放されるのではないかと簡単に考えていました。
釣りに夢中になっているうちに知らぬ間に夕方になっていて、あまり暗くなる前にそろそろ帰ろうかと2人で話し、釣りをやめて魚を池の中に逃がして釣具を片付けたり帰りの支度をしておりました。
すると突然、ゴゴゴゴゴと大きな音と共に嵐のような風が吹き荒れてきて、なんとなく嫌な予感がしたので早く帰ろうと2人とも走り出しましたがすぐに後ろから誰かにひっぱられているかのごとく金縛りのような感覚になり、身体が動かなくなってしまいました。
嫌な予感は的中したのです。
その後池の奥の方から大きな影が水中を泳いでこちらへとやってくるのが見てわかりました。
やってきているのがわかったのですが、金縛りになってしまっているため身体が動きません。
息をするのも苦しくて、なんとなく生まれて初めて「死」というものを予感しました。その魚影のようなものは、こちらの目の前で動きをやめて「早くここから去れ」と一言だけ告げてそのままどこかへと消えてしまいました。
するとすぐに金縛りも解けたので、一目散に家へと帰りました。
それからというもの、あの池には釣りに行くことはなくなりましたがもしかするとあの頭にお皿のようなものをつけた何かはあの池に住む主のような「河童」だったのではないかと思います。
あまりむやみやたらにその池の事情を知らずに魚は釣るものではないのかもしれません。
そのような恐怖体験はしないことに越したことはありませんが、思いもよらないところで体験してしまうこともあるのです。
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